あっという間に時間が過ぎた。
本は好きだが、上下巻の小説を一気に読むという体験は初めてだったし、それだけこの小説には引き込まれた。
「ザ・原発所長」は、社会小説家の黒木亮さんが執筆した作品であり、東日本大震災によって引き起こされた福島第一原子力発電所事故と、その当時所長であり事故対応にあたった吉田昌郎をモデルにした小説です。
この作品には、
- 主人公である富士祥夫の幼少期から中高大の学生生活
- 首都電力への入社
- 数々の役職を歴任しながら奥羽原子力発電所の所長に就任
- 迎える2011年3月11日の運命の日
- 詳細な事故対応の姿
- 最期の瞬間
までがスムーズに描かれています。
黒木亮さんの作品は、メインストーリーはフィクションでありながらも、関連する人物や出来事はすべて事実であり、小説を読みながら日本の政治経済が学べる読み応えが大きな特徴です。
「ザ・原発所長」も、登場する人物や団体の名称こそフィクションであるものの、
- 富士祥夫が幼少期を過ごした昭和30年〜の大阪の街の様子
- 富士祥夫が進学した大教大教育学部附属天王寺校舎(現存しモデルの吉田所長も通った)は自由な校風であり、後にiPS細胞の研究でノーベル賞を獲得した山中伸弥教授も輩出している
- 京都で山陰線に飛び込み命を経った高野悦子が書いた「二十歳の原点」がベストセラーになった
- アメリカのスリーマイル島やウクライナのチェルノブイリ、JOC東海村などで起こった原子力事故
など、読むだけでさまざまな教養を身につけられるのも面白さの1つです。
主人公の姿も、モデルになった吉田所長の人生を再現度高く描かれており、福島原発で本部の命令を無視してまで海水の注入を継続したことで一躍時の人となった吉田昌郎がどのような人物だったのかが詳細にわかります。
大人になってわかった事故の悲惨さ
2011年3月11日の東日本大震災の時、自分は高校2年生の春休みで友達の家にいたのを覚えています。
ホラー映画を皆んなで観ていて、友達の1人が、
「なんかテレビ揺れてない??」
みたいな話をし出したことでニュースをつけ、東北で大きな地震があったことを知り、テレビに映し出される津波に衝撃を受けます。
とはいえ、田舎で育った、社会のことを全く知らない高校2年生の自分は、「なんか大変なことっぽいな…」くらいにしか理解できず、日本中が悲しみに包まれた天災を自分ごととして捉えることができませんでした。
その後、福島の原子力発電所で事故が起こり、最悪の場合日本が分断されてしまう事態に直面していても、当時の自分は何もわからなかったのです。

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