「カラ売り屋」という言葉を聞いて、どんなことを想像するでしょうか?
多くの人が「人の不幸で稼ぐ人たち」というイメージを持つでしょう。
経済小説家・黒木亮の大人気作品『カラ売り屋』は、こうしたカラ売りファンドの悪いイメージを痛快なエンターテインメントとして覆してくれる小説です。
組織に属さず権威にも守られない男たちが、徹底的な調査と執念を武器に市場の虚構を一つずつ剥がしていく。
『カラ売り屋』は「カラ売りファンドは本当に悪党なのか?」という疑問さえ持たずに生きてきた自分が恥ずかしくなるほど、カラ売りに対する見方を根底から覆してくれます。
読み終えた後には、正義感を持って法律では裁けない市場の巨大な悪に立ち向かう金融戦士たちへの静かな敬意だけが残ります。
『カラ売り屋』あらすじ
物語の主人公はカラ売り専業ファンド『パンゲア&カンパニー』。
メンバーは元霞ヶ関官僚の「北川靖」、北川の米国MBA時代の友人であるナイジェリア系米国人「アデバヨ・グボイェガ」、元アメリカ大手企業の財務部長だったアメリカ人「ジム・ホッジス」の3人のアウトサイダーたち。
1990年代の長期上昇相場の中で、数多くのカラ売りファンドが耐えられず破綻していく一方、パンゲア&カンパニーは徹底的に案件を調べ上げる独自の手法で持ちこたえていた。
彼らが次のターゲットに定めたのは、実際には工事が難航しているにもかかわらず、順調さを装って株価を維持し続ける建設会社「昭和土木工業」。
粉飾決算や過大評価された企業を見つけ出し、カラ売りを仕掛けたうえで告発レポートを発表し、株価が下がったところで利益を得ていく。
読みどころ3選
実在の事件や制度を思わせるリアリティ
「カラ売り屋」という存在の再定義
主人公たちによる、情報収集への狂気と現場への執着
実在の事件や制度を思わせるリアリティ
現実の企業や個人を思わせるディテールが随所に盛り込まれており、実話ではないかと思わせるほどの生々しさがあると評されている。
貸株の舞台裏、貸株停止、不正会計のスケープゴートにされる会計士など、現実の金融市場の仕組みを踏まえた描写が、読者を「なるほど」と唸らせる勉強材料にもなっている。
「カラ売り屋」という存在の再定義
空売りという行為は世間的に「人の不幸で稼ぐ」というイメージを持たれがちだが、本作はその固定観念を覆し、市場の虚構を暴く「株式市場の警察官」としての彼らの姿を描く。
時事的な話題を絡めながら、シリーズを通して社会そのものの病巣を映し出していく描写が美しい。
主人公たちによる、情報収集への狂気と現場への執着
パンゲア&カンパニーの武器は、徹底的な調査に基づいた事実(ファクト)だ。
情報収集のためならなんでもする。
この言葉通り、主人公の北川はターゲット企業の嘘を暴くためなら、コストなど気にしない。
- 嘘を暴くために単身で西アフリカへ飛び、ターゲット企業の現場にまで飛び込む
- 実際に作業員に接触し、自分の目で事実を確認するまでは決して諦めない
その手法には賛否が分かれるものの、行動力と執着心はある種の狂気すら帯びていて、プロフェッショナルとしての圧倒的な凄みを感じさせられる。
負ければただの「悪辣な手段」と見なされるからこそ、勝利で自らの正しさを証明するしかない。
そんなギリギリの境界線で戦う男たちの姿に、現実でもがくビジネスマンなら、熱いカタルシスを覚えるだろう。
そのほか3つの短編小説を収録
『空売り屋』には表題と同じ空売り屋以外にも、以下3つの短編が収録されている。
- 「村おこし屋」:平穏な村を蝕む不正に、たった一人で立ち向かう男の執念。
- 「エマージング屋」:ロンドン金融街の分厚い壁と差別に抗う、孤独な戦い。
- 「再生屋」:崩壊寸前のホテルを立て直すべく、泥を啜りながら奔走するプロの矜持。
どの物語にも共通しているのは、理不尽な組織や世の中の不条理に打ちのめされそうになりながらも、自らの仕事に誇りを持ち、戦い続ける男たちの姿だ。
主人公達だけでなく、悪徳企業で苦悩しながら働き続ける人たちの姿にも目が離せない。
泥臭く、しかし誰よりも真摯に仕事と対峙する彼らの生き様。
それを読み終えたとき、「自分ももう一度、目の前の仕事に向き合ってみよう」という静かで熱い活力が湧いてくる。
シリーズの入口として最適
『カラ売り屋』は空売り屋シリーズの第1作です。
この作品が面白いと感じた方はには、刊行順にシリーズを追いかけるのがおすすめです。
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